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上林曉の本 海と旅と文と|山本善行 編|夏葉社
¥2,640
夏葉社はこれまで、『星を撒いた街』、『故郷の本箱』、『孤独先生』と 3 冊の上林暁(1902―1980)の本を刊行してきました。 太宰治と同時期にデビューした作家は、心を病んだ妻を見つめ、のちに脳溢血によって半身不随となったあとも、震える左手で小説を書き続けました。本書『海と旅と文と』はその作家の波乱に満ちた生涯と作品を紹介する、読み応えたっぷりの「作家案内」です。 冒頭の 32 ページでは、写真家・鈴木理策さんが作家の故郷である高知県の海沿いの町を撮影しています。その他、上林の小説が 4 本、震える手で書いた直筆原稿が 12 ページ、全小説集案内、木山捷平、野呂邦暢、関口良雄らが書いたエッセイが掲載されています。編者は、これまでの 3 冊と同じく、京都の古書店善行堂の山本善行さんがつとめてくださいました。ずっと大切にしたくなる、美しい本です。 編 山本善行 写真 鈴木理策 ■上林曉 (かんばやしあかつき) 一九〇二年、高知県生まれ。本名、徳廣巖城(とくひろいわき)。 東京大学英文科卒。改造社の編集者を経て、作家の道に進む。 精神を病んだ妻との日々を描いた『明月記』(一九四二)、『聖ヨハネ病院にて』(一九四六)、脳溢血によって半身不随となった後に発表した『白い屋形舟』(一九六三)、『ブロンズの首』(一九七三)など、長きにわたって優れた短編小説を書き続けた。八〇年没。 ■山本善行 (やまもとよしゆき) 一九五六年、大阪府生まれ。関西大学文学部卒。 古書店「善行堂」店主。関西の情報誌を中心に執筆活動を続ける。 著書に『古本泣き笑い日記』(青弓社・二〇〇二)、『関西赤貧古本道』(新潮社・二〇〇四)、『古本のことしか頭になかった』(大散歩通信社・二〇一〇)、岡崎武志との共著に『新・文學入門』(工作舎・二〇〇八)がある。書物雑誌「sumus」代表。
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初子さん|赤染晶子
¥2,200
著者の赤染晶子さんは、1974年生まれ、京都外国語大ドイツ語学科を卒業後、北海道大大学院へ。2004年にデビュー作『初子さん』で第99回文學界新人賞を受賞します。 その後、2010年に『乙女の密告』で第143回芥川賞を受賞。しかし2017年、急性肺炎のため、亡くなられます。 その後、2023年にpalmbooksさんから『ジャムパンの日』というエッセイ集が刊行され、注目を集めています。今回もpalmbooksさんからの復刊となり、デビュー作の『初子さん』のほか、『うつら・うつら』『まっ茶小路旅行店』が収められています。 『初子さん』は、著者の生まれ育った京都が舞台、パン屋に下宿し、洋裁の仕事をする主人公の初子さんのままならない生を描いています。 飄々とした性格で、せっせと一生懸命働く初子さんですが、洋裁をやりたいという夢を叶えたにも関わらず、どこか生に物足りなさを感じ、また達観しているようにも見えます。 幼少の頃からの苦労や、母の生き方もまた影響しているのかもしれません。 そんな、初子さんに反して、町の人はどこかゆったりとしているようです。町のどことなくゆるい雰囲気が、初子さんの心情を際立たせています。 初子さんの描かれた舞台は、今よりずっと昔の時代ではあるものの、どこか現代の生きづらさにも通じるものがある気がします。一生懸命働いていて、生活していても、どこかやりきれない、虚しさを感じてしまう。必死で生活をこらえている、気がしてしまう。そんな、ままならない生をどうしていいかわからないまま抱えている。 主題は少し重めかもしれませんが、物語全体のトーンは暗すぎず、独特のユーモアがあり、軽快に読み進めることができると思います。 前作の『ジャムパンの日』を読んで赤染晶子さんが気になっていた人や、初子さんの舞台にどっぷりと浸かってみたい人、久しぶりに小説を軽く読んでみたいという人に、ぜひおすすめの作品です。 === あんた、きっとうまいこといくで。 あんパンとクリームパンしか売っていないパン屋の二階で、 初子さんは今日もひとりミシンを踏む。 文學界新人賞受賞デビュー作「初子さん」 傑作「うつつ・うつら」に 単行本初収録「まっ茶小路旅行店」を加えた 著者の原点となる小説集。 子供の頃、一枚の布が人のからだを待つ洋服となるのに魅せられ、洋裁の職人となった初子さん。夢を叶えたはずなのに、かわりばえしない毎日がどうして、こんなにこたえるのだろう。ーー「初子さん」 わて、実はパリジェンヌですねん。京都の古い劇場で赤い振袖姿で漫談をするマドモアゼル鶴子。彼女をおびやかすのは沈黙の客席か、階下の映画館から聞こえてくる女の悲鳴か、言葉を覚える九官鳥か。ーー「うつつ・うつら」 路地にある社員三人の旅行代理店に勤める咲嬉子は、世界中の危険を知りながら今日も世界平和を装う。旅の果てで出会うのは蜃気楼か。すりガラスの窓の向こうに見える日常が蜃気楼なのか。ーー「まっ茶小路旅行店」 生きることのままならなさを切実に、抜群のユーモアをもって描きだし、 言葉によって世界をかたちづくり、語りと現実のあわいを問う 『じゃむパンの日』の著者の原点にして、そのすべてが詰まった小説集。 ===(版元より) 赤染晶子 (アカゾメアキコ) (著/文) 1974年京都府生まれ。京都外国語大学卒業後、北海道大学大学院博士課程中退。2004年「初子さん」で第99回文學界新人賞を受賞。2010年、外国語大学を舞台に「アンネの日記」を題材にしたスピーチコンテストをめぐる「乙女の密告」で第143回芥川賞を受賞。2017 年急性肺炎により永眠。著書に『うつつ・うつら』『乙女の密告』『WANTED!! かい人 21 面相』『じゃむパンの日』がある。
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遠くまで歩く|柴崎友香
¥2,090
コロナウィルス感染拡大のなか、小説家のヤマネは、『実践講座・身近な場所を表現する/地図と映像を手がかりに』という講座を担当することになる。 PCを通して語られるそれぞれの記憶、忘れられない風景、そこから生まれる言葉……。 PC越しに誰かの記憶が、別の新たな記憶を呼び覚まし、積み重なってゆく。人と人とのあらたなつながりを描く長篇小説。読売新聞連載、待望の単行本化。 ■柴崎友香 1973年、大阪府生まれ。99年「レッド、イエロー、オレンジ、オレンジ、ブルー」が文藝別冊に掲載されデビュー。 2007年『その街の今は』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、織田作之助賞大賞、咲くやこの花賞、10年『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞、14年「春の庭」で芥川賞を受賞。その他の小説に『パノララ』『かわうそ堀怪談見習い』など、エッセイに『よう知らんけど日記』ほか、著書多数。
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影犬は時間の約束を破らない|パク・ソルメ 著 斎藤真理子 訳
¥2,640
ソウル、釜山、沖縄、旭川。治療としての〈冬眠〉が普及した世界の、眠る者と見守る者。やがて犬たちが、人々を外へと導いてーー。世界とはぐれた心を結び直す冬眠小説集。 すべての疲れた人たちへーー。 未踏の文学を切り拓く作家による、 韓国と日本を舞台にした冬眠小説集の誕生! ・冬眠は、健康診断とカウンセリングを経て開始する。 ・万一に備えて冬眠者を見守るガイドが必要になる。 ・ガイドは、信頼できる人にしか任せられない。 ・冬眠者の多くが、はっきり記憶に残る夢を見る。 ■パク・ソルメ (パクソルメ) 1985年、韓国・光州生まれ。『じゃあ、何を歌うんだ』でキム・スンオク文学賞を受賞。2019年、キム・ヒョン文学牌を受賞。邦訳書に『もう死んでいる十二人の女たちと』、『未来散歩練習』がある。 ■斎藤真理子 (サイトウ マリコ) 韓国語翻訳者。著書に『韓国文学の中心にあるもの』『隣の国の人々と出会う』等。訳書にパク・ミンギュ『カステラ』、チョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』、ハン・ガン『別れを告げない』等。 単行本 46 ● 204ページ ISBN:978-4-309-20919-7 ● Cコード:0097 発売日:2025.02.27
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すべての、白いものたちの|ハン・ガン 著 斎藤 真理子 訳
¥935
ノーベル文学賞、ブッカー国際賞受賞作家による奇蹟の傑作が文庫化。 おくるみ、産着、雪、骨、灰、白く笑う、米と飯……。朝鮮半島とワルシャワの街をつなぐ65の物語が捧げる、はかなくも偉大な命への祈り。 ”ハン・ガン作品、どれから読んだらいいかわからない……という方には、個人的には『すべての、白いものたちの』をお勧めしたいです。 詩のように淡く美しく、それでいて強く心をゆさぶる名作です” ーー岸本佐知子 散文詩にも似た、断片的なテキストが成す物語。その軸となるのは、著者の母が経験した壮絶な早産の体験だ。 生後すぐに亡くなった姉をめぐり、ホロコースト後に再建されたワルシャワの街と、朝鮮半島の記憶が交差する。 文庫化にあたり、訳者の斎藤真理子による「『すべての、白いものたちの』への補足」、平野啓一郎による解説「恢復と自己貸与」を収録。 著者・訳者 ■ハン・ガン (ハン,ガン) 1970年生まれ。韓国の作家。邦訳著書に『菜食主義者』(李箱文学賞、ブッカー賞受賞)『少年が来る』『ギリシャ語の時間』『すべての、白いものたちの』『回復する人間』『引き出しに夕方をしまっておいた』等。 ■斎藤 真理子 (サイトウ マリコ) 韓国語翻訳者。著書に『韓国文学の中心にあるもの』『隣の国の人々と出会う』等。訳書にパク・ミンギュ『カステラ』、チョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』、ハン・ガン『別れを告げない』等。 河出文庫 文庫 ● 200ページ ISBN:978-4-309-46773-3 ● Cコード:0197 発売日:2023.02.07